癌告知・病棟カルテ開示の意義ー患者アンケート調査からー |
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協立総合病院外科・副院長 原 春久
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| はじめに | |
| インフォームド・コンセントを重視する医療の拡がりの中で、日本においても癌告知を行う医師は増加してはいるがまだ決して主流ではなく、癌告知を行わない癌の医療においてはカルテ開示などの医療情報の提供は不可能である。 日生協医療部会では1991年に「患者の権利章典」を掲げ、わたしたちの病院でもその実践の一環として1993年9月頃より癌告知が積極的に行われるようになった。患者の「知る権利」「自己決定権」を重視した医療情報の提供・共有が検討される中で、癌患者の多い外科病棟において1995年10月よりカルテ開示を開始した。 カルテ開示は精神病患者と癌患者において実施が困難とされており、当院の外科病棟においても実施にあたり、癌非告知患者などの多くの問題点が指摘された。 今回、アンケート調査を行い、癌患者の告知に関する意識調査、および良性疾患も含む患者のカルテ開示に対する意識調査を行ったので報告する。 |
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| 対象と方法 | |
| 1)癌告知とカルテ開示の方法 癌告知は原則として本人の意思を重視して行なうために、当院では入院時に癌などの病気であったとしても知りたいと思うかどうかの意識調査が行われ、この結果を指標としている。再発・末期も含め真実を告げる努力をしているが、家族の告知に対する強い反対や主治医の熱意が影響する。 カルテ開示の方法は、毎日の回診時(2〜3時間)患者のベッドサイドにカルテを置く方式で、この間に患者は自由に自分のカルテの閲覧が可能となる。少数ではあるが癌非告知患者などの病名は本人に告げた病名で書かれ、本人への説明とくいちがうカルテの部分は分冊としている。 |
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| 2)アンケート調査の対象と方法 1996年の一年間に外科病棟に入院し全麻手術を施行した患者(死亡例・現在入院例は除外)を対象にアンケート調査を行った。癌患者にはアンケート表に丸印を付け、回収時、良性疾患患者との区別がつくようにした。 アンケート発送数は225人で163人(72%)の回収、癌患者は127人発送に対し101人(80%)、良性疾患患者は98人発送に対し62人(63%)の回収であった。年齢性別は表1に示す。 アンケートは客観的な調査となるよう郵送無記名で行い、医師や看護婦による聞き取り調査はしていない。 |
29歳以下 3(人) 男 71人 計 163人 表1 年齢・性別 |
| 結果 | |
| 癌患者で自分の病気が癌と答えた人は92人、良性疾患と答えたひとは5人であり、癌告知率は95%である。 癌患者の癌告知に対する意識調査では、癌患者で自分の病気を癌と答えた91人中85人(92%)が自分の病気が癌であることを知ってよかったと答えており、また80人(87%)が再発したり治らない場合でも真実を知りたいと答えている。 |
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| カルテ開示に関する意識調査は癌患者で自分の病気を癌と答えた92人(以下癌患者)と良性疾患患者で自分の病気を良性疾患と答えた56人(以下良性患者)を対比して結果を出した。 入院中カルテの内容を見た人(よく見た+たまに見た)は、癌患者では98%、良性患者では93%であった。 |
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| カルテ開示に賛成の人は、癌患者では86%、良性患者では93%であった。 | ![]() |
| カルテを見て良かったと思った人は、癌患者では85%、良性患者では91%であった。自分の病気を理解するのに参考になったと答えたひとが多かった。 | ![]() |
| カルテを見て、見なければ良かったと思った人は、癌患者では3.3%、良性患者では1.8%であった。自分の病気を知ってがっかりしたと答えた人が多かった。 | ![]() |
| 自分の病気に関する医療スタッフの説明に満足していると答えた人は、がん患者では82%、良性患者では89%であった。 | ![]() |
| カルテのどの部分を見たかの質問は、医師の記載、手術記録、検査データ、看護婦の記載の順で多かった。 | ![]() |
| 自分の病気を知るうえで役にたったのは医師の説明、カルテを見たこと、看護婦の説明の順で多かった。 | ![]() |
| 考察 | |
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癌告知は癌患者が知る権利・自己決定権を行使するうえでの前提条件であり、原則として患者自身の意思を最も重視して行われるべきである。患者が告知を望んでいても患者家族が告知に強く反対する場合もあり、家族への主治医による告知に同意を求めるための説明が行われるが、説得できず非告知となる場合もある。このような状況下での95%の告知率は非常に高いものであり、非告知患者は例外として考えてよい。また癌患者の92%が知ってよかった、87%が再発時にも知りたいと答えており、従来カルテ開示は癌の病名を知られてしまう恐れから否定的に考えられてきたが、この結果は癌の医療においてももっと積極的にカルテ開示を含む医療情報の提供を行なうべきであることを示している。 カルテ開示に関するアンケート調査では、癌患者と良性患者との間に有意差はなかったが、癌患者においては良性患者に比べ、カルテを見た人は多い傾向にあるのに対し、カルテ開示の評価という点でやや消極的な傾向が見られた。癌患者は良性患者に比べ、自分の病気を重大視しながらも、真実を知るにあたってのとまどいは大きいものと推察される。癌患者においても85%以上の人がカルテ開示に賛成であり、見て良かったと思うことがあったと答えていることは、カルテ開示の意義を再認識させられる結果であった。 カルテ開示前のアンケート調査を見ると、1994年、福岡市の千鳥橋病院看護局の調査では、自分のカルテを見たいと思うかの質問に対し、見たいと答えた人は50.5%(入院患者53.2%)であり、1995年(当時は検査データと温度板の開示)の当院の入院患者の調査でも、カルテを全部見たいと答えた人は58%であった。これらの結果と比較しても、カルテ開示の意義が実践的に証明されたといえる。 一方、カルテを見て見なければ良かったと思った人は少数ではあるが良性患者より癌患者に多い傾向にある。その多くは自分の病気を知ってがっかりしたと答えているが、その全例が癌であることを知ってよかったと答えておりカルテ開示を否定するものではない。またカルテ開示により癌に関する自分の病気の知らされていない真実を知り動揺した人も少数みられたが、すべて前向きな解決が可能であった。 日本におけるカルテ開示は、欧米に比べ著しく遅れをとっており、医学会中央雑誌のキーワードに「カルテ開示」はまだ存在しない。カルテ開示の遅れはインフォームド・コンセントの思想の遅れを背景としているが、最近日本においてもインフォームド・コンセントの思想が定着しはじめ、癌告知も進みはじめている。癌の医療においてインフォームド・コンセントを重視するなら、質の高い医療情報の提供・共有が必要であり、カルテ開示はその一助として有用と考える。 (この論文は、月刊保団連1997No.540に掲載されました。) |
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